ひとりはモノがみえる

最近は図書館で本を借りることが多いのもあって、あまり本屋にいかなくなった。そうなると、店頭でのジャケ買い(帯買いもある)みたいなのがなくなって、新しい作家に出会うことも少ない。また、「本の雑誌」や「ダ・ヴィンチ」も定期的に読まなくなったから、「あ、これは好きかも」ってな情報量が絶対的に少なくなってもいる。いかんな。
そんなわけで、遅ればせながら知った作家、石田千。まずは「月と菓子パン」を読んだところだが、いやあ、これ大好き。

月と菓子パン (新潮文庫)

月と菓子パン (新潮文庫)

神田や葛飾など、東京下町での日常が中心のエッセイだが、作者の生活ぶりがとても良い。「散歩して、豆腐屋で買い物して、銭湯に行って、夜は居酒屋で一杯」と書くとオッサンか?と思うが、作者は30代の女性。この年代の女性が、特に下町でこういうことすると、まさにオッサン系か、粋を目指して背伸びしてるか、いずれもどこか無理してる雰囲気を受ける。でも、文章からそれが全く感じられないし、多分実際もすんなりと溶け込んでいるのだろうな。

それから、文体がいい。ひらがなの使い方とか、擬音表現とか、オチへのもっていき方とか、ふとした表現とか。とにかく、出てくるものがうまそうなのだ。食べたり呑んだり、モノを見たり聴いたりって、人と一緒なのも楽しいのだが、一人でやると独自の楽しさがあっていい。相手がいないと、そのもの自体や、周りの空気がよく見えるしね。

また、本作には現在以外、子供の頃の話もある。特に、祖母の姉妹が集まって、年末にお餅つきをする話はよかったな。うちも昔、同じように餅つき器で大量に作っていたことを思い出した。つきたてのお餅の熱さとか、丸める際にみょーんと伸びる感触やニオイも思い出すほど。何度も読み返す。

楽しみながら他の作品も読みたいと思います。しかし、「月と・・・」は文庫版にしたが、単行本版も欲しいなあ。表紙がいい。